3184バイク好き何でもトーク(得!?)《小林ゆき編》

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【路肩の温情】




 「Mさんがバイクの事故で亡くなった」

 そう会社に連絡があったのは、締切り真っ只中の週末の夜だったと思う。

 Mさんと知り合ったのは、まだ自分が人生の方向性を迷っていた大学卒業後のこと。北海道ツーリングの帰り、日本海経由のフェリーで敦賀に向かい、関西を周ってから東京に戻ろうとしていたときのことだった。

 兵庫県北部のどこかで休憩していると、横浜ナンバーのGPZ900Rが珍しかったのだろう。人懐っこい笑顔で声をかけてきたのがMさんだった。
 Mさんたちはちょうどツーリング途中で、彼らはみな美容師さんなので平日にツーリングしているとのことだった。
 これからどこまで行くのかお互い聞いてみると、わたしは神戸の友人宅に寄る予定にしていて、偶然にも彼らはみな神戸界隈の人ばかりだった。それならばと、神戸まで一緒にツーリングを楽しませてもらっただけでなく、夕飯もわたしの友人まで混ぜてもらって楽しいひとときを過ごしたのだった。

 その後も彼らとは何度も遊びに行ったり来たりしていたのだが、何年かしたら、わたしの友人とMさんのツーリングクラブのメンバーが結婚するという嬉しい知らせが届いた。自分が媒介になって友人同士が結婚、子どもまで授かったというのは、今でもなんだか不思議な気分である。
* * * * *

 ツーリングクラブのリーダーMさんの訃報が友人から入ったのは、カスタム雑誌に移籍して忙しい日々を送っていたときのことだった。

 「ほんま急な話で、オレもようやく通夜に間に合うかどうかやってんけどな……」

 何かと世話になったMさんだったので、電報を打とうと斎場の連絡先を尋ねた。

 バイク乗りの若い友人が亡くなるということに直面したのは、ほとんど初めての出来事だったと思う。
 果たして、電報だけ打てばいいのか? 香典を送っておけばいいのか?
 電話を切ったあと逡巡した挙げ句、友人がバイクで亡くなったという事実を直接この目で見て心に刻みつつ故人を偲んだ方がいいんじゃないか、そういう思いが膨らみ、折り返しの電話を入れたのだった。

 「たぶん間に合うから、やっぱ行くわ……」

 時刻は午前0時を回っていたと思う。
 翌朝、新幹線で向かったのでは、午前9時から始まるという告別式に間に合わない。しかし、バイクならなんとか間に合うだろう。
 いったん家に帰り、そこからバイクで向かえば神戸まで休憩も入れて約7時間。帰りもトンボ帰りすれば月曜日の朝までには帰れるだろう。
 わたしは編集長に事情を話して、とにかく神戸に向かうことにした。

* * * * *

 京都を過ぎる頃にはすっかり辺りは明るくなり、これぞツーリング日和という良い天気になってきた。
 いつもなら心踊るようなシチュエーションなのだけど、いつも通りの運転をするべく、心が悲しみに支配されないよう、平静を保つだけで精一杯だった。

 いくつかのジャンクションを経て、神戸市内の阪神高速へ。ここまで来れば斎場まではあとひと息なのだが、前方では渋滞が始まっていた。
 今だから告白するけど、「告別式に間に合わないと困る」、そう焦る気持ちから渋滞のさなか、つい路肩を走ってしまった。よく見ると、前方の渋滞は事故や自然渋滞ではなく、取り締まりによる渋滞であった。その取り締まり箇所を避けるべく走行車線に戻ったのだが、時すでに遅し。警察官が赤い棒を振っているのが見えた。

 日本ではバイクが路肩を走るのは違法とは知りつつも、安全を考えるとバイクが路肩を走ってもいいじゃないか、と甘える気持ちもあった。捕まっているバイクもあれば、見逃されるバイクもいるなかで、事情を抱える自分がなぜ捕まるのかという甘えもあった。

 ともかく、そのまま走行車線を直進すると、わたしの前に両手で通せんぼして立ちはだかる警察官が。

 「ちょっとそこ、どいてください!」

 いま思えば、なんて理不尽なこと言っているんだと自分を嗤たくなる。

 「急いでるんです!」

 いやいや、さっき路肩走ってたでしょと警察官。

 いま、走行車線を走ってたじゃないですか、と屁理屈をこねるわたし。

 やがて警察官が二人、三人と増え、片側1車線を止めているもんだから、後続車は大渋滞が始まっている。
 すったもんだの末、ここじゃなんだからと説得する警察官の言葉に渋々納得し、バイクを寄せる。

 「今日はどちらまで〜?」
 「垂水です」
 「どっから来たん〜?」
 「横浜から」
 「どっか泊まったの?」
 「いや、夜中走ってきました、ってか、早くしないと間に合わないんで、もう行ってもいいですか!」

 とにかく駄々をこねるわたし。

 「いや、そういうわけにも行かないんですよ〜。垂水は何しに行くん? ツーリング?」
 「違います。答えなきゃいけないですか?」
 「言いたくないなら言わんでもええけど……。そんな大事な用事なん?」
 「お葬式です」
 「そういうこと言う人もいるけども〜? 誰のお葬式? なんで亡くなりはったん? どこの葬儀場?」

 あくまで疑ってかかる警察官の言葉に、それまで平静を保ってきた緊張の糸がプツっと切れてしまい、突然、号泣し始めるわたし。

 「いいから早くしないと間に合わないんですっ!」

 ギャンギャンと泣きながら怒るわたしに、警察官の表情も変わってきた。コトの行方を見守っていたほか警察官は、あとは任せたという風情でいなくなってしまった。

 「ちょっと事情を聞かせてもらえないかな〜?ここじゃなんだから、パトカーの中で」

 それまでの経験上、どうぞ別室へ、とか、警察署まで同行願います、なんて警察官が言うのはこっちに不利になるアラートだった。かなり躊躇していると、警察官がこう耳元でささやくのだった。

 (悪いようにはしないから!)

 渋々パトカーに乗りこむと、さっきまでの態度とは一変してこんなことを話はじめた。

 「おまわりさんはね、アナタを心配してるんやで。夜中、寝ないで横浜から走ってきたでしょう。これからお葬式に行くって言うでしょう。なんかあったらだいなしやないか」

 で、その方のお名前は?事故の場所とかわかる?なんかメモとかあったら見せて、というので手帳を見せると、その警官はいったんどこかに去って行った。

 しばらくしてパトカーに戻った警察官はこう言った。

 「で、アナタ喪服とか持っとんの?ちょ、見せて?」

 何を言っているのだこの人は……と思いつつも、バイクに積んであった喪服と黒いパンプスを取ってきてパトカーに乗りこんだ。

 「……この現場ってお巡りさんもよう知ってる場所やったで。この事故の件、連絡入っとったわ。若い人やし残念やったな。悲しいな。
 でな、どこで着替えるん? ××の警察署わかるか?」

 さっきからこの人はいったい何を言っているんだ??とますますハテナマークが頭に充満してきた。

 すると、警察官はメモ紙を取り出し、何やら書き付け始めた。

 「な、ここ高速の出口。わかるやろ? んで、この通りをしばらく行ってここ曲がってな、ここ。ここに××警察署があるから、ここに寄んなさい」

 はい? わたしはついに逮捕されてしまうのか?!

 「お巡りさん、××警察署の人に言っておいたから。ここで着替えさせてもらい。なぁ? 荷物もバイクも預かってくれるゆうてたし。ここから歩いても葬儀場まで10分くらいやで」

 どうやら、違反切符は切られず、葬儀の前の着替えの手配までしてくれたようだった。あまりの温情にありがたくなり、再び涙が止まらなくなった。

 「泣いてるんやったらバイク乗ったらアカン! 泣くな! ええか、心落ち着かせて、ゆっくり行くんやで」

 そう言うと、警察官はいったんパトカーを降り、わたしを一人にした。

 しばらくして戻って来ると。

 「泣き止んだか? なら、ええからはよ行け! でもゆっくりな!」

* * * * *

 いま思えば、こんな温情が許されたのはあの時代が最後だったかもしれない。

 もしかしたら、あの警察官は上司に怒られたかもしれないし、始末書を書かされたかもしれない。
 交通取り締まりで見逃された話を美談にするつもりは毛頭ないが、あの警察官の温情を思い出すたび、自らを省みながらMさんのことを思い出すのである。



 

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